『古本屋開業入門』の「読み方」

もう1冊は、喜多村拓『古本屋開業入門 古本商売ウラオモテ』(燃焼社)。せっかくいただいたのに悪いが、なーんかなあ。志多三郎『街の古本屋入門』(光文社文庫)に書いてあることとほとんど変わらない。オンライン販売についても、正直、目新しい記述はない(まあ、こちらが耳年増になっているせいかもしれないが)。マニュアルとしても中途半端。かといって、エッセイとして面白いわけでもない。本の袖で高橋輝次氏が「ユーモアと風刺の効いた絶妙の文体」と書いているが、どこが? 古本屋の本なのに、〈まんだらけ〉を「マンダラケ」と表記するあたりも、ちょっとね。

まあ南陀楼氏の指摘ももっともで、古本屋を外野から眺めている立場からすれば、新しい視点での論考などを読みたかったと思うのも分かる気がしないでもないです。ただ私のように古本で喰っている者の視点からすると、約20年前に初版の志多氏の本と基本的スタンスが変わらないというところに、時代が変わっても変わることのない古本屋の根本のようなものを読み取ることができたのがむしろ新鮮な印象を残したといえます。


ネット売りも含めて古本屋の役割は、第一に新刊書店よりも安値で提供する、第二に新刊書店では入手不可能な商品を提供することにあるかと思うのですが、第一の分野ではブックオフをはじめとする新古書店に従来の古本屋、それにせどらーも入り交じり混戦状態で、売る側の競争は激しくなる一方です。また第二の分野でも漫画など一定の需要と供給が見込まれる部分については、まんだらけの台頭にみられるように大手でも工夫次第で進出可能ですし、高額本リストや高額商品を容易に検索できるソフトなどの登場で個人の参入も容易ですので、やはり競争が激しくなってくるものと予想できます。


そうなったときにどこで差別化してするか。競争の激しい分野で力を増して競争を勝ち残れるようにすれば良いのですが、個人でその分野のみに勝負をかけるのは困難であるともいえます。ですからその一方で、まだ誰もお宝と認識していないが、客観的にはお宝といえる商品を上手く仕入れてきて売ることができるかどうかが、個人の売り手の生き残りには重要な要素であると考えているのですが、それに必要なのが目利きの能力といえるでしょう。


『古本屋開業入門』でも『街の古本屋入門』でも、そのものズバリでは書いてないのですが、時代を読み解く目とか、時流に流されない価値観といったものを探し当てる大切さはそれとなく説いているような気がしていて、そこに大いに共感するところであります。


黒猫堂さんもこう仰っていますね。

しかし皆に言いたい。そうなったときでも生き残れる先を読んだ工夫と努力を。。。是非に。。。目利きは必ず最後まで残りますので。。。


私としては、この手の本は著者たる古本屋の息遣いが伝わってくるかどうかに重きを置いているので、マニュアルとしてどうかというのは正直どうでも良いと思っています。そうした意味では、この本も秀逸ですね。

ふるほん文庫やさんの奇跡 (新潮OH!文庫)

ふるほん文庫やさんの奇跡 (新潮OH!文庫)

「ふるほん文庫やさん」の創業者、谷口雅男氏の行動力の前には、私のやっていることなんかまだまだだなと思います。


多数が見放した本の中に本当の宝があるという話がでてくるのですが、そうした本をどう入手するかの方法論も含めて、これからの古本売りにもヒントになりそうな話がちりばめられているように思います。