この間の本周辺業界のいろいろについて

大日本印刷グループ、講談社小学館集英社ブックオフの株主になった件、それに伴い本に関わる業界にどのような変化がもたらされのかと、電子書籍の出現によって紙の本をとりまく状況がどう変化するかについて、様々なご意見ありがとうございます。私の見解は5月14日の日記に書いたとおりですが、皆様のコメントを読んだり、いくつかの興味深い論考を目にしたのを踏まえ、若干の補足的意見を書こうと思います。


 ブックオフでの中古本大量販売よって新刊本の売れ行きが落ちているのではないかという指摘を受け、ブックオフ側が著作権団体に対し「著作権使用料のようなもの」を支払いたいと打診したとの報道がされたことは記憶にあたらしいところです。その後どうなったかはブックオフ著作権団体からの公式発表もありませんし、後追い報道もないので、おそらく進展はしていないのでしょう。中古本・メディア販売者が著作権使用料を払うべきかどうかについて、「アーカムブックス」の経営者の方から「アーカムの考え方についてご意見をいただきたい」とのお申し出をいただきましたので、紹介させていただきます。

昔なら古本屋を2軒、3軒回ってなければあきらめて、新刊を買ったはずです。
しかし、インターネットが普及する現在は検索ひとつで人気商品でもすぐ見つかる世の中になってしまいました。

これでは、いくら作品がヒットしても、中古が売れ続け、創作者に利益が入ってこない矛盾を呼び起こしました。

新刊業界が縮小すると、当然2次産業である古本業界もダメージをこうむるわけです。

だから僕は流通網やマーケットデータ、商品データを共有しあい、いづれはダウンロードに脅かされるパッケージコンテンツの領域、つまり紙の本のすばらしさを守りたいと思うようになりこの仕組みを考えました。

アーカム様の思いは、私も共感するところではあります。ただこの問題を解決する手段として、中古本・メディア販売者が著作権使用料を支払うというのは、私は反対です。その根拠として、弁理士の栗原潔氏の論考を支持するところです。

古本の販売については著作権者側には一銭も入りませんので、著作者団体が何らかの形で分け前をよこせと運動するのは一応うなずけます。しかし、それは法律の改定をするよう働きかけるという形で行うべきです。古本の販売に著作権(譲渡権)が適用されない(ゆえに著作権者側に金が入らない)のは現在の著作権法で明確に規定されているからです。

著作権法26条の2では、正規の権利者からいったん譲渡された著作物には譲渡権は及ばないと明確に規定されています(解釈論とか契約でこうなっているという話ではありません)。ちなみに、譲渡とは有償、無償をとわず所有権を移転することです。このようにいったん正式に譲渡されると譲渡権の効果がなくなることを譲渡権が消尽したと言います。

難しいことを言っているようですがこれは当たり前のことです。譲渡権が消尽しなければ、買った本を人にあげたり、フリマで売ったりするときにも著作権者の許諾が必要ということになってしまい、現実的に妥当ではないからです。

もし「中古本・メディア販売者が著作権使用料を支払う」というのを完全実施しようとしたら、私も含めて支払わなければならなくなりますが、その際の事務処理は膨大なものになることが予想されます。アーカム様はシステムの活用を提唱されていますが、業界全体としては中古本・メディアの二次流通は単品管理されていない場合も多いので、業界全体にこの方法を取り入れるのは不可能だと考えます。それでは「できる範囲でやれば良い」という話もでてきそうですが、そうなると公平性の問題が出てきます。
次に考えたい点は、「中古本・メディア販売者は著作権使用料を支払うべき」の議論の矛先は、ほぼブックオフにのみ向けられており、他の新古書店チェーンや全古書連加盟の中小古書店に対して、著作権団体からそういう要請がされたというのは、私の知る限りでは聞いたことがありません(もしそういう話があったよということをご存じの方がいらっしゃいましたら、ニュースソースとともにご一報いただければ幸いです)。つまり出版業界や著作権団体としては、ブックオフ以前の中古流通の規模なら深刻な影響が感じなかったが、ブックオフの出現でリサイクル率が上昇したことによって問題が顕在化することになった、凶因は中古業界一般でなくブックオフであると捉えているように見えます。また、ブックオフの出現が出版業界の脅威になっているのはある程度事実でしょうが、出版不況の要因がいろいろあるうちのひとつにすぎません。ましてや、出版業界や著作権団体は、中小個人の中古業者・販売者に対してそうした要求をしていない以上、法的根拠のない支払いをこちらからする必要はないと考えます。創作者に実態にみあった著作権使用料をどのように保証するかの問題を、中古業者・販売者の負担によって解決しようというのは、別の問題を生み出し現実的ではないと考えます。新品業界と中古業界との共存のためには、不振の原因を相手になすりつけあうことでは解決せず、それぞれがそれぞれの持ち場で商売を頑張ることが大切かなと思います。


電子書籍の出現が紙の本に影響を与えるかどうかですが、私見では、百年先まではわかりませんが、少なくとも10年20年先のレベルでは、電子書籍が一定の普及はするにしても、主流はまだまだ紙の本ではないかと思います。現状でも電子書籍がいろいろあるのに、あまり普及していないのは、やはり紙で読むメリットは我々が考える以上に大きいというか、人間の生理的にかなったスタイルであるからではないでしょうか。
それはそうとして、せどりとか古本販売にどういう影響があるかどうかですが、我々に一見不利と思われる、電子書籍が主流になった状況を前提に考えてみます。そうなるとブックオフのように全国規模で大量販売しているところは確実に影響はあるでしょう。そんなことも見越しているのか、当のブックオフは古本より、中古メディアに軸足を移しつつあるようです。青森市の組合加盟古書店林語堂」さんが、「ブックオフが本を買わなくなった」とブログで書いています。

「こんな綺麗な本、ブックオフにお売りになったほうがよろしかったのに」と、わたしが言うと、
「それが、小説は買わないと断られたんです」と、奥様。その家のじいさんが読んでいた本で、いまは時代小説ブームだから、売れるとは思う。それを買わない?
 その話はあちこちで聞かされた。どうして? ブックオフが本を買わなくなった? 古本屋が本を買わないということは、やめるときか、在庫調整のときだ。
 ところが、春の新しい電話帳のタウンページが配達されてきて、古本のところを見たら、なんと、いままでは買取広告をどかんと大きく載せていたブックオフほんだらけも枠外広告が消えていた。

地元のブックオフが本を買わなくなった。どうしてだろうか。ピカピカの新しい本ばかりを買いに行ったら、出してきて、こんな本ばかりだけど、ブックオフに電話したら断られたと売主はボヤいていた。去年おととし出た時代小説ばかりで、別に悪くはない。そういえば、そんな話はあちこちで聞いた。ブックオフに行ってみると、本棚の下の引き出しにも本がびっしりと入っていて、時々は入れ替えしているようだが、見れば同じ本ばかり何冊もある。さらに、奥の倉庫には、ダンボール箱に入ったまま、出せない本が山と積んでいる。在庫オーバーなのだ。もう店には入らない。資金も寝るだろうし、本はあまり動かない。出るより入るほうが多いので溜まってゆくばかり。それで、本部から仕入れストップの指示が来たのではないか。そうなると、この辺りの本はすべてうちに集まる。

大手業者で古本が主流の商材ではなくなってくるということは、本の市場規模が縮小していることの表れともいえますから、手放しで喜べることでは決してありませんが、そうなればそうなったで、ニッチな商売ができる中小個人の販売者の出番ではないかと思っています。ちなみに林語堂さんは、今回の件では次のような日記を書いています。

著作権の問題で、ブックオフらを相手にとり提訴した経緯も最近はあった。ブックオフが一億だったか判らないが、ネットでは協会に金を出したということも記憶には新しい。もし、それをブックオフでやろうとしたら、いまでも赤字なのに、ますます赤字が膨らむ。それだからといって、他の古本屋が法の整備もせずに右へ倣えするはずがない。
 ただ、いろんな可能性はある。この猫はネズミを獲る猫か、商売繁盛のまねき猫か、長靴をはいた賢い猫か、いずれにしても、そこまでさせた業界には必ず思惑があってのことだ。

 さあ、どうなるか、非常に楽しみなところでもある。ただ、うちのような古い本が好きな古本屋にとっては、今後、どうあろうと脅威にはならないと思っている。ブックオフで売っている商材の殆どを扱っていないし、主力には持っていっていない。ここ十年の本ばかりが対象であれば、相手がネットできても怖くはない。事実、すでにイーブックオフでわたしも個人的に本を購入したことはあるが、うちにない新しい本だったからだ。

 これから、古本業界は大きな変化を迎えるのだろうか。戦々恐々としているところもあるだろうが、どう出るかが、楽しみでわたしなどはわくわくしているところだ。

 それではせどらーはどうしたらよいか。私がせどりをはじめてから5年経ちました。5年前のやり方のままだったら、今では全く通用しないでしょうが、何とか続けていられるのは、多少は時代に合わせて成長してこれたということかもしれません。もっとも来年もやれている保証はありませんが(笑)。継続して結果を出せている方だったら、かなりの確率で、今後の外的要因の変化も上手く乗り越えていけるのではないでしょうか。日々、仕入れ出品発送を積み重ねていくことです。