「高売り」で利益を確保せよ

でんかのヤマグチさんが「安売り」をやめたワケ

でんかのヤマグチさんが「安売り」をやめたワケ

よそより10万円高くてもお客さんが喜んで買う「町の電器屋さん」が大切にしていること

よそより10万円高くてもお客さんが喜んで買う「町の電器屋さん」が大切にしていること

東京都町田市でいわゆる街の電気屋さんである「でんかのヤマグチ」山口勉社長の本。家電量販店の進出を機に、安値競争から離脱し、顧客サービスを充実させることで売上が最盛期から減少させつつも粗利益率・額を上昇させ経営を好転させた方法論が解説されています。顧客も安値重視だったりクレームの多い層は切り捨て、自店と相性の良いお客様に絞り込むことで、個々のお客様に丁寧に対応する時間を確保、顧客の数を減らしても客単価を上昇させ価格競争から脱却するのが中小業者の生き残る道という主張は、他業種の私達にも多くの示唆を与えてくれます。
うちではここ数年、新規出品物の中心を法律書を中心とする学術書・専門書系にシフトしてきた結果、相場下落する商品の割合が減少してきました。そのせいか価格改定しても、以前は改定直後は見違えるように売れ行きが活発になったのが、最近では改定前とさほど変わりません。そこで以前は原則毎日実施していた価格改定の頻度を段階的に下げ、いまでは月1回するかしないか程度にしました。価格改定に使っていた時間を新規出品にあてるほうが、うちの場合は売れ行きがよくなっています。


リアル売りの催事でも、初参加の2010年8月新宿小田急と2回目の2011年1月宇都宮東武、3回目2011年3月の中央線古書展までは、平均単価200円程度でした。催事参加当初は、リアル売りのお客様は安くなければ買ってくれない、だからブックオフ以上のお得感を出さなければいけないと思いこみ、100円から300円の商品を主力にしました。そもそも催事に進出した動機は、ネットで売りにくい商品の売り先になればと考えたからです。確かにそこそこ数は出ましたが、他店にくらべると格段に低い売上に。売上が高い店はどこが違うのか観察してみたら、客寄せ用の低価格商品を揃える一方で、高くても売れる良書をきちんと品揃えして、そこが売上の主力となっていることがわかりました。改めてうちの棚を確認してみたら、数少なかった高額商品でも、良い物は売れているのでした。
そこでそれ以後、ネットの残り物を出せば良しという考えは甘かったと反省し、催事は催事用の商品を仕入れて商品単価を上げる、具体的には500円〜2000円の価格帯を中心に据えつつ、2000円〜1万円、場合によってはそれ以上の高額商品もきちんと取りそろえる方針に完全転換。その結果、2012年3月の中央線古書展では単価700円程度まで上昇。単価1000円以上の売上冊数が増え、5000円以上の本も5冊ほど売れました。催事でもネットと同様、必要以上に安売りする傾向が顕著なので、何とかその風潮に歯止めをかけたい、そのために当店ももっと高単価商品を売れるようになりたいと思うようになりました。


山口氏ははじめて来店したお客様には「うちは高いですよ」と話し、自店と相性の良い人がどうか見分けるそうですが、思わず「うちもやってる」と嬉しくなりました。もっともうちの場合は買取の時なので「うちは買取価格は安いですよ」(実際には古書相場の現状を具体的に説明するので一言では済ませませんが)になります。実際は法律書は業界最高値と思われる買取価格で買いますし、それ以外の本も世間相場、ものによってはブックオフ等より安く値付けしてもトータルでは適正価格で買うようにはしています。しかし相場とてらして高価買取しても、お客様が高価買取と感じてくれるかどうかは全く別問題。古書相場が昔より下落している現在では、絶対的な金額は高くならない場合が多いので、現実の相場と、お客様の相場観のズレはよくあることで、その辺が買取価格への不満となって現れる原因になりやすいです。あと経験上、買取価格を気にする人ほど大した本を持っていない、逆に買取価格にうるさくない人ほどいい本を持っている傾向があります。また、自分で買った本を売却する人は、特に本のコレクターの場合、思い入れがあるだけに買取価格に期待する傾向があります。故人の蔵書整理だと、遺族にとっては片付けてくれるだけて大助かりというケースがほとんどです。自分で買った本でも、仕事で使う専門書の処分の場合は、コレクターとくらべて価格に頓着しない傾向にあります。買取の場合、お客様の価格以外のニーズがどこにあるか、例えば大量で自分では片付けきれないので全部きれいにしてほしいとか、折角の本なので捨てるのには忍びず、欲しい人に橋渡ししてほしいなどがありますが、それらを会話をする中で察知し、それに見合ったサービスを提供することが肝心であると思っています。


なお本の中で山口氏は「在庫の上限は売上1ヶ月分まで」というのは、回転商品重視の店は別として、古本業界には必ずしもあたらず、とくにうちのような業態ですといかに大量の在庫を抱えられるかが勝負になるので、そのまま当てはめることはできません。しかし売れない在庫を持つリスクは同様なわけで、その辺のリスクヘッジをどうするか、新品業界ではこういう形になるのだなという参考になりました。ここで思い出したけど、ヤフオク専業の古本屋で、在庫は1週間分という人がいましたなあ。本当に古本屋の方法論は百人百態です。