痕跡本とか日記とか

痕跡本のすすめ

痕跡本のすすめ

この本をきっかけに、痕跡本が一部で注目を集めているようですが、下の写真は東京・西荻窪にわとり文庫さんのツイッター(@niwatoribunko)で紹介されていた「痕跡あり過ぎ本」です(にわとりさんから転載許可いただきました)。



関西味覚地図』という本に、元の持ち主が行った店の箸袋やマッチ箱などがホチキス留めされ、スタンプまで押されているそうです。一般的には書き込みだの貼付がある本は商品価値が下がり、売り物にならない場合も少なくありませんが、ここまで徹底していると、元の持ち主がこの本片手にどんな行動をしたか、どんな嗜好だったのか、人となりが垣間見られるようで楽しいですね。ネット販売では売りにくいですが、直接手にとって見ることのできるリアル販売だったら世界でただ1点の貴重な商品になり得ます。

この手の1点ものといえば、3月の中央線古書展で、昭和10年代の新聞切抜帳を売りました。某市場の振りで出たのですが、誰も買い手がつかず、半ば厄介払いされるように、うちが激安で引き取ったものです。写真に撮ってなかったので文章でしか説明できないのがもどかしいのですが、当時の子供が手作りしたと思われるもの。使用済みのノートや、親にもらったと思われる小冊子に、新聞連載の4コマ漫画を切り抜いて貼り集めたもの。ご丁寧にデパートの包装紙で表紙にカバーをかけ、題名と元の持ち主の名前(ひらがな)が書いてあるというものでした。5冊あったのを1冊500円で並べたら、開場まもなく、5冊まとめて同じ人が買っていきました。その漫画を読むだけでなく、その当時の空気まで味わえるし、これを作った子供の熱心さも伝わってきます。当時の子供の風俗習慣を伝える資料にもなるでしょう。世間的にはただの古い紙くず、同業者も無視するようなものから、これはというものを発掘し、商品化して売ってみる。それを買ってくださるお客様がいると、自分が提案した価値が認められるような気がして、古本屋冥利に尽きる瞬間であります。


これは先日のデジタル大市で仕入れた資料の中に混じっていた、1970年頃の大学生の日記帳。学生運動をやっていた学生のものらしく、記述のひとつひとつに若者らしい元気良さ青臭さ未熟さが現れていて、とても興味深いです。これを書いた人は今頃孫の世話でもしているかもしれません。タイムマシンに乗ってその人の過去に会いに行った気分になりました。書かれている内容が実在している人物の個人情報や名誉を侵害する恐れのあるものでないと確認できたら、是非商品化したいと思っています。実は昔の人の日記って、隠れファンがいるらしいですよ。