熱いだけでは冷めやすい…

妻の知人で商売を始めては潰しを繰り返している女性がいます。見ていると素人の思いつきをそのまま店にしたという感じで、市場調査とか収支計画などはしていなさそうでした。行動力と特技がある人なので、合間には雇われで働くのですが、それも長続きせず、自営に戻り、また潰して勤めに戻る感じです。ひとり暮らしなのでそれでも何とかなっているようです。それゆえに、失敗から教訓を引き出して今後に生かすという視点が育ってないように見えます。


私が以前知っていた人でサラリーマンなのですが、5年前くらいでしたか、古本屋を開業しようとしていた人がいました。ブックオフのやり方を参考にしつつ、品揃えを読書家向きに特化した本のセレクトショップを指向し、経営も店主の経験と勘に頼る旧来の古本屋方式ではなく、マニュアルを作って従業員に任せられるようにし、複数店舗展開を目指しました。しかし業界未経験(販売業の経験すらなし)でネット売りも小遣い程度しかしたことのないレベル。開業時の収支計画や損益計算は一応していましたが、ブックオフより高く買い取って安く売れば客がつくだろうというレベル。価格競争に頼らない集客という視点は薄かったようです。奥さんは当然反対。私は「理想はわかるがいま街の小さな古本屋だけで喰っていくのは至難だから、まずネット売りで生活できる基盤をつくる。実績をつくれば奥さんを説得しやすくなるし、自営業は配偶者の理解がなければ成功しない。あと買取は店舗がなくてもできるから、手始めにご近所にチラシをまいたりして感触を掴んだら」という話をしました。しかし彼はネット売りをしたら店舗に本腰がはいらないからと、あくまでリアル店舗一本での独立にこだわり、買取に腰を上げることもしませんでした。ほどなく貸店舗をみつけて独立計画の実行を宣言したもの奥さんや親族の大反対にあい、泣く泣く独立をあきらめることに。この顛末を振り返って「独立するとは決めたものの経験もなく、それが自信のなさにつながった。やはりネット販売で生活できるようになった時点で店舗を三軒等する」と言っていました。しかしこの間のゴタゴタがかなり心理的に響いたようで、ネット販売に本腰を入れる様子もなく、その後連絡も途絶えたので、いまどうしているかはわかりませんが、古本屋として独立はしていないようです。
私も催事とはいえリアル販売を経験し、始める前の印象とやってみたうえで知った実態はかなりのギャップがありました。また数少ないリアル店舗の成功例を見ても、軌道に乗せるまではかなり時間をかけているようです。彼がその時無理して独立しないでよかったと、つくづく思います。


一人目の彼女は、とにかく思い入れだけ。二人目の彼は一応数字レベルの計画は練った者の、外見や数字だけではわからない商売の実態までは知らなかった。というか自分の思いと相反する現実を知ろうとはしなかったという点では、一人目の彼女と共通するような気がします。
阿部塾の塾生達が、塾の対応に不安や不満を抱きつつも、でも言っていることは正しいと思うから付いていこうとしているのは、多額の金額を払っているので塾を否定すると自分の失敗を認めることになる、金をドブに捨ててしまったという現実を見たくないので塾に固執しているのだと分析を聞いたことがありますが、私もそう思います。
他人のことはこのように客観的に見られますが、翻って自分はどうか。自分はそういう人達と違うんだと思いつつも、やはり個々の事例では冷静になって考えてみると、現実逃避的な対応をしていることが多々あります。うちの場合は妻が指摘したり、まわりの同業者と比較する中で気付いたりしているのでまだ何とかなっていますが。商売をやるのに想いや情熱は不可欠ですが、それと併せて冷静かつ客観的な視点も必要。しかしそのバランスを取るのは心掛けていてもつくづく難しいと思います。