古本屋はなぜノウハウを喋りたがるのか

同業者と話していると、自分の手法とか、仕入れ販売などで儲かった話、失敗したはなしなどを話したがる人が結構多いです。かくいう私もそうだったりします。なかにはこんなことまで喋っちゃっていいのというくらい踏み込んで語る人もいます。そんなに手の内あかしたらライバルが増えて、商売に支障をきたしてしまうのでは、逆においしい話をして釣ろうとしているのではないかと勘ぐる向きもあるかもしれません。でも当人達は、ただ喋りたい、聞いてもらって受けたい、自慢したいくらいなところだったりします。


ノウハウは、言葉で伝えられる部分は基本的なことくらいで、本質的な部分は自分で実践して試行錯誤して確立していくしかないというのを、今更ながら痛切に感じています。即売会なら、商品を何冊用意したらよいかとか、道具は何を揃えたらよいかは、教えてもらえばわかります。売上目標を達成するために、どの価格帯の商品をどれだけ売るかも、一応皮算用はできます。しかし実際にやってみると予想通りいかない。いい商品を持ってきたはずなのになぜか売れない、隣の店の品揃えも自分と大差ないように見えるのに、なぜかそちらばかり売れるなんてことになります。そこではじめて違いを観察すると、例えば同じように見える分野でも微妙に傾向が違っていて、あちらのほうが売れ筋を掴んでいたとか、あちらは仕入れたばかりの本ばかりだったけれど、うちは使い回したものが多かったとか気付きます。それを元にさらに試行錯誤を繰り返して確立していくものが、本当のノウハウになるわけです。


ラーメン屋でも名店といわれるところは、もちろん基本的なレシピはあるのでしょうが、その日の天候に応じて麺の加水率を変えるとかいう微妙な調整をすると聞きます。気温何度で湿度何%の時は加水率を何%変えるなんて換算表があるわけではなく、職人が経験から得た自分の感覚で微調整するわけです。換算表がないのは、そういうのをそもそもつくれないというのがあるし、仮につくれたとしてもそれは過去のデータに過ぎず、現在の状況がそれに完全に当てはまるとは限らないからでしょう。アマゾンのランキングが良いから今後も売れる保証が必ずしもあるわけではないのと似ています。古本屋もせどらー結果を出している人は、過去のデータに頼り切らない、そういう感覚を持っています。ですから喋れる部分を全部喋ったところで、ノウハウを全部盗まれるなんてことはありえない。それで真似されて困るなんてのは、所詮その程度のレベルでしかないということでしょう。


当人にしてはその程度でも、私にとってはこれは凄いというやり方やネタはいくらでもあるし、到底その通りにはできない、でも個別断片的に聞かされる情報でもそこから導き出せる普遍的なものが重要なヒントになり、それはネットには載ってないことだったりするので、やはり対人関係から得る情報は馬鹿にできないと思うわけです。